地震と活断層(3):沈み込みサイエンス

update 2003.4/5

日本の現状

 指でチョークを押す。そんで傷から割れ目が広がって割れる。プレートの押す力で活断層が動く。ゴゴゴゴ。  
 つまるところプレートが斜め下に押すもんだから、南海トラフではスラスト(逆断層のこと)が跳ね上がるわ、中央構造線は横ずれ起こすわ、海溝では付加体が成長するわで、火山は噴火するわ、大陸は成長するわ、温泉は湧くわ、海底資源が陸化するわで、いいかげんにしろよなって感じですな。

 断層は地殻が破壊してできます。だから破壊について考えます。物が破壊するには、外力と構造と物性などがキーになります。わかりやすく言うと、チョークをこういう風に指で押したとします。大気圧が四方八方からチョークを押していて、そんで指の力が加わる。するとチョーク内部にあるかすかな欠陥や、無数のチョーク粒子の境界などがズルッと滑りはじめて、ついには全体の破壊に至るわけです。破壊条件の詳しくは別の回で述べますが、これを日本列島と地震に言い換えると次のようになります。

  太平洋プレートやフィリピンプレートが日本列島の下に沈み込んで、日本列島をぐいぐい押します。そんでこの日本列島はいろんな岩石が、規則的に配列するという構造をしていて、そして古傷ともいうべき断層がビシバシ入っています。ある一定の方向から押される結果、最も動きやすい方向の断層が動ってわけです。これが活断層です。ただし断層はすべからく地震を起こすわけではありません。地表付近の岩石は御存知のように固いのですが、地下深部、深くなるに従って地球内部は温度が上昇します。その結果岩石も軟らかくなるのです。つまりいわゆるバキッっていう破壊を起こさなくなります。つまり温度条件も知る必要があります。

ってなわけで今回は、日本列島の地質構造と温度構造を見ていきます。

 

ご存じのプレートテクトニクス

テレビでお馴染みの地球の断面とプレートテクトニクスを描いたシンプルな絵です。

  とはいえまずは皆さん御存知のプレートテクトニクスです。まあ知っているでしょうが、基本は地球の表面は何枚かのプレートと呼ばれる固い岩盤の殻からできていて、こいつらが互いに適当に動きあって、離れたり、すれ違ったり、衝突したり、沈み込んだりすることで、地球表層で起きるありとあらゆる地質現象、地震や火山や大陸成長などを説明しようとする野心的なモデルです。で実際のところ、かなりの所まで成功を収めていて、シンプルで美しくてたいしたもんです。次に日本との関係を見てみましょう。

 
 海嶺で生まれたばかりのプレートは熱い。けど冷えるにつれて重くなって沈んでいくんですね。ココがポイント!!

  プレートというのは海嶺で生まれます。海嶺にはマントルの湧き出し口があります。マントルは溶岩ではありません。岩石です。でも温度が高いために長い時間をかけるとゆっくりと変形して対流します。海嶺でプレートが両側に離れると、下のマントルがむき出しになって、ジュッ と冷えます。これが海洋プレートです。とまで言い切ると語弊があり、岩石学の専門の人からは怒られるかもしれませんが、ここではそうしときましょう。で、これが年に数センチという遅さでゆっくりと移動してきます。ここが大事な点ですが、出来立て(冷えたて?)の海洋プレートはまだ熱かったのにこれが徐々に冷たくなってくるのです。冷えると体積が縮みますね。つまり密度が高くなる。すなわちプレートは移動するに従ってどんどん重くなってくるってわけです。で、冷たくて重い海洋プレートが大陸プレートにぶつかると、材質的にも圧倒的に軽い大陸プレートは断固沈まないので、海洋プレートの方が沈むってわけです。これが我らが沈み込み帯です。

 

地質帯の名前を覚えましょう(イヤだろうけど)

 さて、そんな話がどーして「地震と活断層」に関係するかというとさっき話した、破壊に重要な要素の全てに深く関与するからです。つまり、材料の構造(地質構造)、歪ませる外力(海洋プレートからの応力)、破壊機構(、これらのいずれにも決定的に関与します。

では、まずこの四国の地質構造から見てみましょう。これが地質図です。色とりどりに塗られてますね。これはそれぞれそこに分布する岩石の種類を表しています。別に紫で塗られているからと言って紫の石があるわけではありません。こうして眺めてみると、四国の地質図は縞模様になってますね。このヨコシマは、四国が生まれる前から、ずううっっっとプレートが沈み込み続けていて、そんで海洋プレートの上に溜まった堆積物が大陸側にどんどん押しつけられ続けて、どんどん付加してできたんですね。少しずつ堆積物が岩となって陸地が増えてきたからシマシマなんですね。まさに年輪です。ですからこの辺には2億年前の沈み込み帯の様子が、この辺には1億3000万年前の様子が、この辺には6500万年前の様子が。そして南海トラフでは今現在フィリピン海プレートが沈み込んでいます。こうしてどんどん押しつけられてできた地質体を付加体と呼びます。

  次に四国の地帯構造区分を覚えましょう。四国は大きく分けて4つの地帯からなります。北から領家帯、三波川帯、秩父帯、四万十帯です。あ、そんなローカルな地名は覚えたくないって顔してるな。地質ではこういった地名やら岩石名が頻繁に出てくるけど、基本的な奴は暗記しなきゃだめです。それは植物の研究をするのに花A,B,Cですみますか? 化学実験するのに薬品A,B,C。もしくはタンパク質イ、ロ、ハでは? そうはいかないでしょ。 同じです。しかも地名はイメージが結びつくので結構簡単です。例えばこの四万十帯は、うちの県の四万十川から取られた名前です。ここに典型的に分布する付加体です。これは四国のみならず沖縄から関東まで1000km以上も細長く続く、日本の重要な地質帯の一つです。そして沖縄だろうが、九州だろうが和歌山だろうが南アルプスだろうが、どこまでも四万十帯なのです。他の地名になったりしません。同様にこの秩父帯は関東の秩父山地を模式地とします。これも四国でも沖縄でも秩父帯です。ちなみにこの秩父帯と四万十帯の境界である仏像構造線の仏像というのも変な名前ですが、地名です。ここから1時間くらいの須崎市の山の中に仏像という集落があります。私も行ったことはありませんが、、、 

 数億年前から日本の下にプレートが沈み込み続けていて、海洋プレートの上にたまっていた堆積物がどんどん付加し続けて日本列島は脈々と成長してきたのです。ずーっと長い間。だから地質図がシマシマになるのです。だから相対的に海側ほど新しいのです。高知市(約2億年前)よりも須崎市(約1.3億年前)、中村市(約6500万年前)、清水市(約2000万年前)、、、そして南海トラフ、すなわち現在の沈み込み帯へと至るのです。

  で、この四万十帯と秩父帯。何が違うかというと、どっちも付加体なんですね。ただし付加した年代が、秩父帯がジュラ紀で、四万十帯が白亜紀から第三紀にかけての時代という年代の違いしかありません。つまりこの辺が2億年前で、高知大があるあたりからババタコ、そして荒倉トンネルまでが1億3000年万年前くらいです。トンネルを抜けると白亜紀に付加した四万十帯になって、そのまま国道を走って中村市まで行って四万十川を渡るちょっと前あたりからは第三紀に付加した地質帯です。もう恐竜も絶滅しました。そんで足摺岬までいくと2000万年前くらいになって、そこからはるか沖を眺めると、南海トラフでは現在の付加体ができているってわけです。

 では、秩父帯に戻って、その北の三波川帯と領家帯は何が違うのかというと、この2つは変成帯です。変成岩からできています。ちょっと話は脱線しますが、岩石の種類を話します。岩石というのは大きく分けて3種類あります。火成岩と堆積岩と変成岩です。火成岩はマグマが冷え固まった岩石です。堆積岩というのは砂や泥や生物の死骸が海や湖や陸上にたまって、粒子がくっついて岩石となったものです。そして変成岩は堆積岩や火成岩が高い温度や圧力によって化学反応して新しい変成鉱物ができることで変成岩となるのです。例えばこの三波川帯は比較的低温で高い圧力を受けてできたものですし、それに対して領家帯は比較的低圧で高い温度を受けてできた物です。これで一応登場人物が全員登場したわけですが、この三波川帯と領家帯の境界にある中央構造線は、世界でも第1級の大断層です。ぜひ覚えておきましょう。

さあ、いよいよ日本列島の仕組だあ

   さてこのような美しい帯状配列の地質帯と沈み込み帯の断面を比較してみましょう。このようなシンプルな断面図を考えます。海洋プレート上の堆積物はプレートともに沈み込んで大陸プレートに押しつけられて付加体をつくります。こうして四万十帯や秩父帯ができます。しかし堆積物の一部にはプレートとともにえらく深くまで持ち込まれる奴もいるのです。ここでさっきのプレートテクトニクスを思い出してみましょう。海嶺で生まれたプレートはまだまだ熱いんだけど、徐々に冷たくなってきて、沈み込む頃には冷たいプレートになっているものです。で、この冷たい奴が沈み込むのですが、そもそも地球の内部は深くなるほど温度圧力が高いので、この断面図に等温線を引くとこうなるわけです。でもそこに冷たい物が沈み込んでくるとかなり深いところまで冷やされて、沈み込み帯の等温線は下に凸の形になります。ってことはこのあたりでは、圧力は高いけど温度は比較的低い状態となりますね。すなわち低温高圧。三波川帯はこの辺で変成したんです。だいたい30kmくらいの深さの話です。

  で、プレートがもっともっと深くまで沈み込むと、圧力依存の化学反応によってそれまで鉱物中に取り込まれていた水が放出されます。そうすると融点が下がってマグマが発生します。いいですか、普通はマグマなんてものは存在しないのです。ある特殊な状況、温度が異常に上昇するとか、圧力が異常に下がるとか、融点を下げる物質が添加されるとかしないと、普通は岩石は溶けだしたりしないのです。これがだいたい110kmくらいの話です。この辺の話は詳しい教科書があるので、そっちを熟読して下さい。マグマは浮力でもって上昇して火山となります。プレートがこの深さにまで達しないとマグマが発生しないわけですから、プレートの沈み込み口からある程度離れないと火山ができないのです。ほら、四国には火山がないでしょ。山陰の大山や三瓶山にまでいってはじめて火山が現れるのです。東北でも太平洋沿岸には温泉地帯はないでしょ。海溝からしばらくは火山がなくて、磐梯山から西には多くの火山や温泉が、ばしばし出てくる。こういった前線を火山フロントと呼びます。で、付加体中にマグマがバシバシ入ってくると、堆積岩は比較的浅い部分で高温にさらされますので、低圧高温の変成作用を受けるのです。これが領家帯です。

 冷たいプレートが沈み込んで、堆積物が押し付けられたり(付加体)、マントルが冷やされたり(高圧でも低温の状態)、と思ったら今度はマグマが発生したりします。この一連の事件が重要!

 というわけでこの四国の地質というのは、まるで沈み込み帯の断面をそのまま見ているようなものなのです。今話したような沈み込み帯の内部というのは、誰も直接見たことも触ったこともない世界です。なにせ人類がボーリングできる最大の深さは、ソ連時代のロシアのコラ半島で掘られたもので、30年近くかかってせいぜい10kmという程度のものだからです。つまり今現在、進行している地下深部には到底アクセスできないのです。でも、それも数千万年から数億年経つと次第に隆起してきて地表に現れてきます。ボーリングなら約1km掘るのに1億円ほどかかりますが、ちょっとドライブに行けばすぐに地下10kmのものでも地下30kmのものでも手に取って調べることができるのです。せっかく四国に来た皆さんは、沈み込み帯研究の絶好のチャンスなのです。

そういえば地震と断層の話は?

  さて、話を断層に戻しましょう。さて、このような沈み込み帯では、どこで地震が起きるでしょうか。はい、最も重要なのはプレート境界です。はいそうですね。次は? はい、中央構造線のような内陸型の震源断層で起きます。正解です。では、まずプレート境界を見てみましょう。ええっと、このプレート境界では、のべつくまなくどこでも巨大地震が起きているのかと言うとそうではないのです。浅いところではどうでしょう? 海溝にたまった堆積物が付加体を作ります。ぐずぐずのぐちゃぐちゃですから、きっと地震は起こせません。一方、深い部分はどうでしょうか? 300℃を越える当たりから岩石はゆっくりとした変形を受けるようになります。ゆえに深すぎてもいけません。小さな地震ならともかく、巨大地震を起こすには適度な温度が必要です。と・こ・ろ・で、沈み込み帯の温度条件は沈み込むプレートに大きく影響を受けます。さっき言いましたように古くて冷たいプレートが沈み込む場所や比較的若くて熱いプレートが沈み込む場所とでは、温度条件が全然違います。我らが南海トラフでは、比較的若い海洋プレートが沈み込んでおり、たいへん熱い環境になっています(こんな沈み込み帯は珍しいのですが)。一方の東日本の日本海溝にはトップクラスに古くて冷たい大平洋プレートが沈み込んでいます。西日本と東日本では、同じ沈み込み帯でも同じではないのです。

  次に中央構造線を見てみましょう。海洋プレートがぎゅうぎゅう押してきて地殻が歪んで、プレート境界が滑ることによって地震が起きるのですが、プレート境界のみで歪みが解消しきれずに、その一部が中央構造線で解消されて、内陸型の地震が起きます。ちなみにフィリピン海プレートが上空から見て、四国に対して斜めに沈み込んでいるので中央構造線より南の岩盤は西へ、北側の岩盤は東へ動きます。ちなみに断層を挟んで相手側の岩盤が右に動くので右横ずれ断層と言います。

 沈み込み帯型の地震にしても、内陸型の地震にしても、結局は沈み込むプレートの応力方向や熱的条件に大きく支配されます。大陸地殻の構造も重要な要点として加わってきますが、沈み込むプレートの影響はとても大きいと言えましょう(雷で言えば、積乱雲の状況と身に着けている金属物みたいなもんでしょうか? やっぱ最後は金属物がものをいうけど、大事なのは天気だよね)。でも、今現在見られるプレートの状況は、太古の昔からこうだったわけではありませんし、未来も現在と同じではありません。例えば1億年前の白亜紀の四国の下には、古くて冷たいプレートが北〜北東方向に向かって沈み込んでいて、中央構造線も当時は左横ずれで動いていたのです。今とは比べようもないですな。

 というわけで構造、温度、応力場が大事だあ、という話でしたが、こういったものは時代とともに変化し続けるのです。ぐおんぐおん、と。では、破壊条件に影響するファクターが刻一刻と変化したら予知なんてできっこないじゃん。か、と言えばそうではありません。それは1億とか数千万年といったとても長い時間スケールの出来事であって、ここ200万年くらいでしたら問題ありません。その間に100年とか1000年といった間隔で地震がくり返し起きるのです。ああ、今日はフルに90分授業でしたね。お疲れ様でした。


今回は下記の教科書を参考にさせていただきました。
平 朝彦 著 「日本列島の誕生」
斉藤靖二 著 「日本列島の生い立ちを読む」
巽 好幸 著 「沈み込み帯のマグマ学」

四万十帯に便利

地震と活断層

1.でかい地震はどれだけでかい?
2.活断層はなぜ危険なのか?
3.沈み込みサイエンス
4.予知はすでに実現している?
5.ストレスがたまらねー
6.ストレスが原因ですね
7.必殺!グリフィスクラック:破壊力学1
8.クローン?いやクーロン:破壊の力学2
9.モールの美:破壊の美学3
10.スリッププレディクタブルはあり得ない
11.水圧と地震
12.破壊衝動に駆られて
13.壊したから.わかった
14.強ければそれでいいのか
15.摩擦って何よ
16.摩擦の追憶
17.そして地震の発生
18.あなたって.いざという時に...
19.震源になるために:固着すべりの力学
20.バネがすべりにスティフネス
21.質問はありませんか? あのー...
22.原材料表示があればいいのに
23.広大な断層のどこかに
24.脱臼でもしてゆっくりしたら
25.地震の巣 深部で起きていること
26.ダイヤモンドとじんせい −脆性破壊−
27.ハンガーニュークリエーション




 
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