地震と活断層(11):水圧と地震

update 2003.10/25

ダムの貯水が起こした

 さて、前回は「スリッププレディクタブルはありえなくなーい?」という話でした。ところがぎっちょん。こいつが成立するためにあり得ることの一つに水圧があります。

 水と地震と言うと必ず紹介されるのが、ダムによる地震です。ダムを作って水をためたら地震が起きるってやつです。アメリカ、ジンバブエ、ギリシャ、オーストラリア、インド、エジプトなど多くの国で報告されていて、でかいのではM=5.7などという被害も起こしたことがあるんだそうです。

 貯水するとすぐに群発地震を起こす奴や、数年のタイムラグがある奴。終わったと思って水位を上げると、またも発生する奴などあるんですって。まー聞きました?オクサマ〜 しかもすぐに起こる奴はダムの直下で、遅れる奴はちょっと遠くで起こるんですって。きっと染み込むのに時間がかかるんですよ。それだったら庭に水まいても地震が起きるのかしら?

 そもそも水を入れたからってなんだって地震が起きるんですかねえ。

地下の水

 地下では水はどこに存在するのでしょう? 地下水や温泉ってのがありますね。現代文明の基礎である石油も水とともに地下にありますねえ。よく断面図では地下水層とか石油の層とかありますが、そこには「石油や水だけがちゃぷちゃぷとある層」なんじゃなくて、岩石詰まっているんだけど、小さな隙間に石油や水が入っている層って意味なんですな。隙間にあるからこれを間隙水と呼びます。この場合、成分は問いません。石油だろうと水だろうとビールだろうと、液体のみならず水蒸気だろうとガスだろうとなんでもかまいません。こういったものをひっくるめて流体と言うんですが、地下にあれば、ぜーんぶ間隙水と呼びます(英語ではpore fluidなので間隙流体と言うのが最も妥当だろうけど、なぜか間隙水というのが一般的)。こいつらの圧力、つまり間隙水圧が力学的にはめちゃ重要なのです。

圧力って何だっけ?

 圧力ってこういう風な柱の重さで考えます。っていうことは高校生の理科で習いましたね。思い出しましたか?

 圧力について思いだしましょう。中学だったか高校の理科1でだったか、なんしか必修の授業で習ったはずです。パスカルっておっさんの事を。例えば大気圧(台風情報で聞く980ヘクトパスカルのこと)は、周囲の大気が我々を押す力ですが、これはその重さに比例します。つまり宇宙から地上の我々にまである空気の重さなんですな。ん?よく分からないって? じゃあ例えば巨大な人間ピラミッドをつくったとしましょう。それも縦横高さ10人づつのやつで(これって立方体だからピラミッドじゃないなあ)、あなたはその一番下の段をやったとしましょう。あなたにのしかかる重さはいくらでしょう? はい、あなたの上にいる人たちの重さの合計ですね。これはたまりません。大気圧もこれと同じです。水圧の場合は、空気の重さじゃなくて水の深さになるだけですね。そして地下の場合は岩石の重さになるだけの話です。例えば深さ10kmの震源断層の表面、1mには1mX1mX10000mの岩石の柱の重さと同じ重さがかかっているのです。

 これが岩石じゃなくて水が乗っているのであれば、 水の密度は密度1.0g/cm3なので、1mX1mX1mで100万g=1000kg=1tになりますね。でも岩石なので、とりあえず岩石の密度を2.3g/cm3とすると1mX1mX1mですでに2.3t。それが1mX1mX10000mにもなると1m2あたり23000t!にもなることになります。

 うひょー。幅数10km長さ100kmにもおよぶ南海地震の震源断層全体にはどんだけすごい力がかかっとんねん! で、1m2当たり23000tの重さがかかるってことは、これをニュートンで言えば(応力の章参照)1kg重を0.98Nとすると22570000N/m2ってことですから、これって22.57MPaの応力が生じているってわけです(これは深さを一定にして計算してあるけど、実際は陸側ほど深いので、もっと大きいです。寝ながら聞いてる学生は気づかないであろうが)

 海底に井戸を掘って、その底で感じる圧力は、同じ深さの海底と同じですね。単に水の柱を考えればいいんですから。これを静水圧っていいます。
 地下の空洞には、岩石の重さがのしかかります。しかもその上には水があるので、水の柱+岩の柱を重ねたと思えばいいんですね。10+23=33MPa こいつを静岩圧っていいます。
 空洞が海底に完全につながれば、空洞内の高圧の水はぴゅーって抜けて、井戸と同じ水圧になるでしょう。つまり間隙水圧は静水圧と静岩圧との間のどこか、なのです。
 間隙水圧が上昇するって事は全方位に均等に押し返すってことです。とりゃっ

で、間隙水圧とは

さて本題の間隙水圧は右図のように考えるとわかります。まず、深さ1100mの海底の圧力はいくつかと考えます。どうして1100mと半端な数字かと言えば、水圧がちょうど10MPaになるからですね。そこからまた井戸を1100m掘ったとしましょう。では、井戸の底の水圧はいくらでしょう?

 はい。20MPaですね。トータル2200mの水の柱があるのだから。

 では、次の図の岩石中の洞穴にかかる圧力はいくらでしょうか?ここでも岩石の密度を2.3g/cm3としましょう。で、この場合は 答え=海底面の上の水の重さ+洞窟の上の岩石の重さ です。

10+23=33MPaです。

 では、洞窟に水が詰まっていたら?(つまり間隙水圧を聞いている) はい。答えは33MPaですね。岩石の圧力と同じです。

 でも、もしもこれが次の図のように洞窟と井戸がつながっていたらどうなるでしょう?

 こんなひっかけ問題に惑わされてはいけません。洞窟がもしも井戸とつながっていたら中の水圧はもちろん井戸底の水圧と同じになるに決まってます。つまり20MPa。
 もし洞窟の水圧が外より高ければ、水は外に(この場合井戸に)噴出して、結局は圧力は同じになるでしょう。

 このつながっているのか、いないのか? ここがカギなんですね。間違いなく試験にでますね。私が学期末まで覚えていれば。

 つながっていれば、ぜーんぶ水の柱と同じ状態(静水圧という)。逆につながってなければぜーんぶ岩の柱と同じ状態(静岩圧という)。

 では、ちょこっとつながってたら? 少しづつ漏れてる状態の洞窟の部分の水圧は? これはどれだけちょろちょろ出ているかによりますね。難しく言えば透水率がポイントってことですな。

炸裂! 一子相伝の奥義、究極の必殺技

 さて、断層沿いに隙間があって、そこに水が詰まっていたとしましょう。そんでその水圧(つまり間隙水圧)が上昇したとしたとしましょう。え、?どうやって水圧が上がるのかって?
 ふーん、じゃあ周囲の泥岩が化学反応してじわじわ水を発生させていて、そのために水圧が上昇する、というシナリオならいい? では、間隙水圧が上昇しました。

 この水、液体、気体、などまとめて流体は、周囲に力を伝えるのに特定の方向性を持ちません。つまり閉じこめられている水の圧力が高まっても、壁の一ヶ所だけを押したり、引いたたりはしないってことですね。トーゼン。
 周囲の壁を全方位均等に押し返します。この状態を皆さんが大好きなモール円で見てみましょう。えーっと、周囲からの静岩圧は先ほどと同じにして、断層面には封圧が33MPa(σ3)かかっていて、それに加えてテクトニックにも力がかかっていて、σ1が60MPaだったとしましょうか。そうすると 差応力(σ1−σ3)は

60−33=27MPa ですね。

つまりこれがモール円の直径ですね。で、間隙水圧はどう作用するかといえば、断層面にあって、そんで周囲を全方位に押し返しています。例えばここで間隙水圧が上昇してきて10MPaになったとしましょう。すると水圧は周囲の岩圧に対抗してますから、断層面にかかる封圧σ3は

33−10=23 MPaということに。

しかもテクトニックな力の方向にも10MPa押し返しますから、断層面にかかるσ1は

60−10=50 MPaに。

でもσ1−σ3の差応力は

50−23=27 MPaで、さっきと同じです。

 ってことは、σ1もσ3も同じ量だけ減ります。するってぇとモール円の直径は同じまま左へ移動します。すると破壊しないはずのものも破壊しちゃいます。究極的にはモール円の直径がゼロ(つまり差応力無し)でも破壊できます。す、すごすぎる。なんでもありじゃん。

でもこれを図で見てみると、封圧が下がった分だけモール円が左に動きます!!この時モール円の直径はそのままで左に移動するって所がポイントです。そうすると、そのままでは決してクーロンの破壊線に触れそうになかったのに、水圧が上がっただけで破壊してしまうのです。これは極端に言えばモール円の直径が限りなくゼロ、つまり差応力がゼロ(σ1=σ3)、ってことは弾性歪みもゼロ、であってさえも間隙水圧が上がりさえすれば破壊してまうってわけです!!! フツーなら断固、何があっても破壊しない状態の物が破壊するんですから。こんなことをされてはたまりませんね。今まで一生懸命学んできたことはなんだっんでしょう。なんだか全てをひっくり返されるほどの威力を見せつけられた気がします。間隙水圧ってすごいですねえ。冒頭のダムも地下で間隙水圧が上昇してしまった結果なんですね。

で、スリッププレディクタブルは?

というわけで、破壊するはずのない応力状態の断層を破壊させる方法の一つは、間隙水圧を急激に上昇させるってわけです。つまりスリッププレディクタブルモデルに沿って言えば、

「前回からの地震から、これだけの経過時間が経っており、歪みがこれくらい貯まっています。今、急激に間隙水圧が上昇して地震が起きたら、これくらいの歪みが解放されます」

ってわけです。え?どーやったら間隙水圧が急に上がるのかって? しかも数100年おきに繰り返し繰り返し。さあ、どうしたらいいんでしょうねえ。しかも断層はしっかり固着している(だからこそ歪む)のに、水はどの隙間を通ってくるんでしょう。そして動き出した断層にブレーキをかける奴はいないのでしょうか(もう一方のタイムプレディクタブルモデルでは、ブレーキがかかって歪みを残したまま停止するのが前提でしたね)。わからんことばかりです。誰かわかったら教えて下さい。じゃあね。


今回は下記の教科書を参考にさせていただきました。
ショルツ 著/柳谷 俊 訳  「地震と断層の力学」

四万十帯に便利

地震と活断層

1.でかい地震はどれだけでかい?
2.活断層はなぜ危険なのか?
3.沈み込みサイエンス
4.予知はすでに実現している?
5.ストレスがたまらねー
6.ストレスが原因ですね
7.必殺!グリフィスクラック:破壊力学1
8.クローン?いやクーロン:破壊の力学2
9.モールの美:破壊の美学3
10.スリッププレディクタブルはあり得ない
11.水圧と地震
12.破壊衝動に駆られて
13.壊したから.わかった
14.強ければそれでいいのか
15.摩擦って何よ
16.摩擦の追憶
17.そして地震の発生
18.あなたって.いざという時に...
19.震源になるために:固着すべりの力学
20.バネがすべりにスティフネス
21.質問はありませんか? あのー...
22.原材料表示があればいいのに
23.広大な断層のどこかに
24.脱臼でもしてゆっくりしたら
25.地震の巣 深部で起きていること
26.ダイヤモンドとじんせい −脆性破壊−
27.ハンガーニュークリエーション




 
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