地震と活断層(24)脱臼でもしてゆっくりしたら? 結晶転位機構1

update 2005.12/10

深い世界での歪

プレートはでっかいのに巨大地震を起こせる部分はごく一部にすぎません(小さめのなら深いところでも起きてるが)。つまりプレート境界の圧倒的大部分は塑性変形領域なのです。

  地下深―い部分では温度が高いです。そうすると岩石といえども柔らかく、押すとぐにゃって曲がります。海洋プレートが日本列島にコンコンと応力をかけても、ぐにゃっと変形できれば弾性歪みは蓄積しません。つまり地震は起きません。力に応じて地殻も曲がる、つまり塑性変形するだけです。

「なーんだ地震と関係ない話ですか。だったら休講にしましょーよ」
「いえいえ。今日出てくる結晶転位機構は破壊や物の強さとも深くかかわってくるんですよ。しかもプレート境界の大部分は塑性変形をしているのですから重要ですよ。はい、これほんと。」

  って言っても、どんな物質でもガンガンに温度を上げれば、ついにはドロドロに溶けちゃいます。だから、地下深くで岩石が軟らかいのは当然ジャン。と思うかもしれません。でもそれはちょっち違います。岩石の融点までいくような高温の話ではないのです。もっと浅いところでも軟らかいって話です。例えば金属の融点は、鉄だと1500℃(化合物があればもっと低い)、銅だと900℃、アルミだと600℃くらいです。でも融点よりずぅっと低い室温でも針金は軟らかいものです。そう、グニャグニャ曲がります。同様に、実は岩石も融点よりもはるかに低い温度領域で、軟らかく変形するのです。おもしろいでしょ。そして、ここで重要なのはメカニズムです。溶融してどろどろになる、というのと低温でもぐにゃぐにゃ曲がるというのは、メカニズムが全く違うのです。それが今回のテーマです。

奴らを分断し、切り崩せ

弾性歪みから脆性破壊に至るってのは、こういうことですね。整然とした原子同士のバネのような振る舞いと、それが断ち切られる過程です。
高温で溶けるってのは、こういうことですね。原子がばらばらになって液体や気体といった流体状態です。
では、塑性変形とは?

  えー、物質というのは、原子や分子といった粒子の集合体ですね。この粒がどう振舞うか、から変形を考えます。

  まずは弾性変形です。これはプラスチック定規に力をかけると、ぐぐって曲がるけれど、手を離すとびよーんと元に戻るあれです。この弾性変形は、原子や分子同士を結び付けている力(つまるところ電気的にくっつくいていのですが、、)が、バネのように振舞うことに起因します。粒と粒とをつなぐ小さなバネがちょっとづつ伸びたり、縮んだりしていて、それが無数に集まっているのです。そのために巨視的にも弾性的に振舞うってわけです。これら粒と粒の間をつなぐ小さなバネが切れない限り、その物質は弾性体でいられます。

  でもこれじゃあ塑性変形は起きません。どうすれば永久歪をつくれるでしょうか。はい。粒と粒とのつながりを断ち切ればよいですね。ぶちっと。こうすれば応力に応じて変形しても二度と元に戻りません。永久歪が生じます。

  粒と粒を断ち切るには2つの方法があります。プラスチック定規で言えば、定規をどんどんムチャに曲げて、うおーっっ バキッ と破壊してしまえば、永久歪が生じます。さもなくば、どんどん高温にします。温度が上がるとプラスチック内部の分子運動がどんどん活発になります(っていうか、それこそが温度が上がるという現象そのものだが)。ついに分子の運動エネルギーが分子間力を超えて、分子同士がばらばらになります。これが融解したって状態でして、分子配列はむちゃくちゃになっています。こうすれば粒同士のつながりはなくなり、塑性的に変形できます(っていうかこれは流体だ。もはや固体の変形のじゃない)。

  でも、針金のように、融点よりもはるかに低温での塑性変形は、今の2つの方法「破壊」や「融解」ではうまく説明できません。針金は破断も、融解もしてませんから。まったく別の第三の方法で断ち切らなければなりません。それが結晶転位というメカニズムです。こいつはバキッと壊れることなく、そして原子や分子配列をバラバラにすることなく、ぐにゃぐにゃ曲がることを実現できる方法なのです。おお、それはすごい。

 

融解も破壊もしない、第三の選択肢

  ところで、この結晶転位機構の「転位」というのは、英語の dislocation のことでして、直訳すれば脱臼になります。だっきゅ〜?? 整形外科じゃないんだから、どうしてそれが塑性変形と関係するわけ?って思います。それはこういうことです。

  金属に例えますと、金属結晶の内部では原子が整然と配列し、原子同士は互いに結びついています(だから結晶なのですが、、)。でも、よーく見ると完全無欠に整列しているわけではなくて、なかには結びつく相手がなく、手を余している奴もいるようです。こういう風にあまっている手を、骨の関節に例えて、脱臼しているって考えます。で、この脱臼してる奴は、相手がいたら結びつきたいのですが、まあしかたなく我慢してるってわけです。

  しかし、もしそこに応力がかかって、材料全体が歪むと千載一遇のチャンスが訪れます。材料全体が弾性的に歪むと、原子同士をつなぐ小さなバネもちょっとづつ伸びたり縮んだりします。そうすると脱臼してた奴に近づく原子も当然あるわけで、そのスキをついて、相手を略奪します。奪った奴は新しい相手と結ばれて安心。でも奪われた奴は、替わって脱臼状態になってしまいました。つまり脱臼の数は変わらなくても、脱臼の場所だけが移動したことになります。

  このように組みやすい相手と組み替えて、脱臼箇所が移動していくと、互いに最も無理の無い組み合わせが増えていきます。これってどういうことかと言えば、材料内部でどんどん弾性歪が無くなっていくってことです。

  私が針金をぐっと曲げると、その瞬間に内部ではものすごい勢いで脱臼が次々に動きまくって、針金の弾性歪みを解消していってるのです。そして私が、ぱっと手を離した時には、すっかり塑性変形していて、針金は曲がったままになっているってわけです。もちろん、完璧には解消し切れなかった弾性歪みが残っていれば、少しはびょんと戻るかもしれませんが。

原子は、ゆがんだ格子は嫌いです。だから、もし脱臼があれば、ぽこぽこって組み換えて、歪みを取ってしまいます。というわけで、転位が移動するのは大歓迎です。でも、転位同士がぶつかると、前には進めません。
 

減って、増えて、増えすぎて

  この脱臼というか、転位は、材料内部を移動しまくるのですが、どんどん移動して、材料の端、材料の表面にまで達すると、小さな段差(原子もしくは分子1つ分のサイズの段差)を1つ作ってお終いになっちゃいます。この場合、転位は1つ消滅したことになります。じゃあ、変形させると転位はどんどん、どんどん減っていくのかといえば、そうではありません、。例えば強い応力をググッとかけると、ポコポコッてあちこちが脱臼するのです。つまり、転位は生まれたり、消減したりしながら、材料内部をぐるぐる移動しているのです。

  ところで上のアニメの最後に移動する転位同士が干渉するシーンがあります。転位は次々にお隣さんを脱臼させながら移動するのですが、転位同士が衝突すると、互いにつなぎ替えができなくなるので、それ以上動けなくなってしまうって意味です。ここがポイントです。転位が多ければあっという間に弾性歪みは消え失せて、すみやかに塑性変形できます。でも転位同士が互いに干渉すると転位機構が働かなくなります。軟らかくなるためには転位が多すぎてもダメだし、少なすぎてもダメってことです。

  これを針金で例えてみましょう。ぐにゃって曲げると、針金内部では無数の転位がぐるぐる動き回って塑性変形します。でも、同じ部分をぐにゃぐにゃと何回も曲げ続けると針金内部は転位だらけになります。そうすると、転位は思うように移動できなくなります。こうして塑性変形する能力が失われた針金は、硬く、脆くなって、ぽきっと折れてしまうってわけです。 な、なるほど。たしかに針金をぐにぐに曲げると、急にポキッと折れるなあ。針金の化学組成は変わってないのに、転位が蓄積しすぎて軟らかさが失われたってわけか。ふむふむ。

 

ま、ゆっくり暖まって

まとめますと、
  応力をかける → 弾性的に変形する → やばい、このままじゃ限界に達する → そこに転位が現れて、塑性変形して弾性歪みが消えさる 


  というストーリーになります。そしてこれは金属に限った現象ではありません。あらゆる材料、あらゆる温度で起きている現象なのです。ただ、ガラスや岩石を室温で応力をかけてもめだって塑性変形しません。かといって、うーんと応力をかけるとバキッと脆性破壊しちゃいます。これは室温では、塑性変形の程度が限りなく小さいためです。つまり上のアニメで言えば、脱臼(転位)の速度が遅くて、やんなっちゃうわけです。一方、金属は室温でもすみやかに転位できるので、室温でもやすやすと塑性変形できるのです。この転位の速度っていうか、転位しやすさは温度によります。ガラスや岩石でも、うんと温度を上げれば金属のように塑性変形できるようになりますし、逆に金属といえども、うんと低温にしたら転位機構が働きにくくなって、ばきっと破壊しやすくなるってことです。

 

「身近な例で言いますと、、」「あのう全然身近じゃないんですけど、、」

温度を上げると、内部ではすごい勢いで転位が動き回って、弾性歪みが消え去っていくのです。

  この温度・弾性・転位・塑性、の関係を別の例えで見てみましょう。大きな鋼材をある形に加工したいとします。ジャッキで適度な形に変形できたとしても、それは弾性変形の領域で、ジャッキをはずと、びよーんって戻ってしまいます。さて、どうしたらよいでしょうか? 

案1:
   もっともっとジャッキで歪ませる。ジャッキをはずした時に多少戻っても、少しは塑性変形は残るようになるだろうから、どんどん歪ませたり、ジャッキをはずしたりを繰り返して、目標の形に近づける。

なるほど、それでもできそうですが、変形させすぎたりして、失敗する確率も高そうですね。

案2:
   まず、ジャッキで目標の形に変形させます(このままジャッキをはずすと元に戻ります)。そしてジャッキをつけたまま暖めます。加熱することで塑性変形を生じさせます。その後常温に戻して、ジャッキをはずします。弾性歪みは転位機構によって雲散霧消してるので、ジャッキをはずしても変形はそのままってわけです。

  これはよさそうですね。っていうか、これは金属加工の手法の一つです。このプロセスには、弾性歪み、転位、温度、塑性変形の関係がよく現れてます。なるほど。理解した!

  で、それがいったい地震とどう関係するのですか?ですって? それは次回以降ににつづきます。今回は温度が上がると転位しやすくなって、塑性変形するって話でした。


今回は下記の教科書を参考にさせていただきました。
J.E.ゴードン著 土井恒成 訳 「強さの秘密」
田中三彦 著 「原発はなぜ危険か―元設計技師の証言 」

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地震と活断層

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